ダグラスノース「制度原論」第2部–第7章と第8章

その先にあるもの(p125)

第2部で取り上げられる諸問題の提示
  1. 信念体系の進化による社会構造の帰結とそれぞれの時間を通した変遷の理解
  2. 生産的または非生産的な経済制度と政治制度を創出する信念体系を説明するために、その起源を理解する
  3. 相互依存的な経済・政治・社会の世界でのインセンティブ構造とそれらの相互作用の様子に対する理解
現代新古典派経済学社が無視する躓きの石
  1. 市場からの利益を増加させるような制度変化には、人間の遺伝的遺産に反するような再考が必要
  2. 知識の専門化を低い取引費用で統合させるためには新奇な制度的・組織的結合が必要
  3. プレーヤーが限界的領域に向けて競争するとうなインセンティブ構造の構築によってスミスの有益な結果が実現する。
  4. 良く機能する市場に対して、政府に対してある程度、行動を制約する政治制度が必要である。

第7章,進化する人為的環境(p132)
自然環境の制圧の概観と人為的環境の特徴について
 
1,自然環境の制圧(p133)
共通の分母を持ち異なる言語と組織という形態が成り立ち農業の採用➡︎その後の複雑性を増し、多様な文明が開化する➡︎これらの文明の発展の差異は各文明に属す人間にとって適合的な自然環境であったか否かが重要であった➡︎近代に入ると科学的知識の登場でそれらは重要な意味を持たなくなった
人間を取り巻く条件の劇的な変化(p134)
近代経済成長を包括的に概観するためには制度的要因(社会・政治的要因)と西洋以外の文明の阻まれた発展などを等しく観察する必要がある
人口増大(p135)
  1. 表7,1:GDPの格差の拡大
  2. 図7,1:18C初頭の人口増大
  3. 図7,2:寿命の増加
  4. 図7,3:乳児死亡率の減少
  5. 図7,5と図7,4:大都市の増加と郊外から都市への人口移動(※第1次産業が後退することを意味しない)
取引費用の増大(p139)
現代経済の劇的な成長要因は、取引費用の増大を補って余りある生産費用の削減である。
図7,6:取引費用の増大
国際的な相互依存性と格差(p140)
図7,7:国内においても経済成長は見られるが、現代世界では輸出額の増加がGNPの10%を占めるようになってきた。
図7,8:人間は自然環境を制圧し不確実生の低い現代世界を創出することをできたが、人類を破壊する武器を創り出す世界を生み出してしまった。
図7,9:信念により形成される制度的枠組みの相違により先進国と発展途上国GDPの差が拡大した。
▶︎初期は自然環境の適合具合によって発展のパターンが分化してきたが、近代に入ると経済成長への影響は極めて減少したために、経済成長は「人口動態」,「知識ストック」,「制度」の相互作用の成果によって大きく変わってくる。
人口の質(p142)
自然環境の制圧は人口動態(人口の質)に大きな影響を与えた。フォーゲルは特に19世紀に人口動態を飛躍的に改善することができた。この中で、フォーゲルは人口の質に含まれる死亡率の低下の主たる要因は、医療の発達ではなく、伝染病の克服であると認識した。人類の質を示す指数の一つとしてHDIがあり、アメリカでは徐々に増加してきたことがわかる(図7,10)。また、フォーゲルは新知識により慢性疾患の発生率が低くなったとし、ただ長生きになったのではなく、より健康的に生きているとする。この過程の背景で制度は、公的保険制度という形で伝染病の制御のための個人による公的保険の受容が果たされたとする。
知識のストックと専門化(p145)
自然の制圧が進むにつれて、社会も複雑に変化し、技術進歩も速まっている。モキアは潜在的な知識や技術を制度や組織が開化させるという点で、制度的枠組みを重要視している。知識の専門化を示す指標として、図7,12があり、激増していることがわかる。これからわかる専門的な知識を持つ人々を低い取引費用で統合するには、新しい制度と組織(補完的な)に依存しなければならない。
知識の扱いについて(p147)
知識ストックの成長の方向に信念がどう与えてきたか?その前に、知識とは何なのか。知識=信念なのか。信念が問題解決の本質からずれていると、知識が上手に使用されずに、問題を解決できない。
 
2、複雑化する人為的環境–匿名的交換の拡大(p148)
自然環境の不確実性に対応する社会の特徴は、規範の共有であった。そして、自然環境に対処するための制度や信念と人為的環境に対処するためにそれを対比することで、変化の過程を理解出来る。前者は個人的紐帯による非匿名的股間のための制度構造に依拠し、後者はルールと実行化の公式構造に依拠する。➡︎異なる信念集合は異なる、経済・政治・社会の進化する構造を形成した。
経済変化の3つの側面(p150)
経済変化が持つ3つの側面
  1. 信念体系の起源
  2. 社会変化に対して信念はどう適応するのか、またどう制度を備えるか
  3. 6つの要因の相互作用が寄与し近代経済成長が成し得た。これは、どんな判断によってもたらされたのか。
 
第8章,秩序と無秩序の原因
秩序や無秩序を生み出す信念が、どのような条件の下で起動するのかを探求
1、秩序とは何か(p154)
権威主義的な政治秩序の成立:為政者が定めたルールに従う方が得だと考えるとき
総意による政治秩序の成立:人々が尊重するルールに従う方が得だと考えるとき➡︎共有された心的モデルは合法と認められた制度となり、逸脱は違法となり逸脱者は罰則を受ける。
理念のまとめ4点ありp156にある:権威主義にも多様な形態があり比較を通じ重要なことがある。
  1. 権威主義を受け入れるのは無秩序よりもそれが良いからである。
  2. 権威主義的な支配と総意による支配においては威圧は必要なのである。前者は非公式な制約があり、後者は公式の制約がある
2、無秩序が生じる理由(p158)
  1. 大規模集団による昔からのメカニズムの解体が行なわれるが、代替できる適切なメカニズムがない
  2. 革命を起こす方がリスクが小さいと諸個人や集団に考えさせるようなものである➡(プロセスp159)
3、秩序の維持–制度配置の柔軟性
秩序の維持の鍵は、匿名的交換制度の確立である。アメリカは独立革命南北戦争の後に、すみやかにこの秩序再建を見せた。経済の大きな変動において生じる諸問題にいかに上手に対応できるかは、適応効率性にかかっている。
経済変化に直面する政治秩序を維持に関する4つの命題
  1. 市民に権利を付与し、行政官の行動に制約を課し、その行動の範囲は社会規範の発展の度合いに規定させる。
  2. 憲法において政治に対して制約を課す
  3. 財産権と人格権の明確な定義
  4. 政府の信ぴょう性のあるコミットメントの提供
これらは制度配置により公式ルールとして定められる。この命題を社会規範として強く抱かれるには数世代の時間が必要で、無秩序がはびこる社会に秩序をうち立てるのは難しい。だから、ときには権威主義的な秩序を選ぶ。
4、アメリカの政治史・社会史・経済史(p161)
アメリカ独立戦争(1775-1783)〜南北戦争(1861-1865)の間で分析したことを描き出す
大英帝国の連邦制度(p162)
フランスの脅威が高まる中、イギリスと植民地アメリカは互いに必要とした。厳格な線引きがあるシステム上、双方が監視しやすい状況がつくられていた。帝国制度は安定していたが、揺らぎ始める。
  1. 英仏植民地戦争による財政圧迫が起き、植民地(アメリカ)に資金の融通を求める
  2. 植民地アメリカはイギリスの帝国の1部となり、合理的な政策を進める上では、1部の地域の犠牲も求められた。
イギリスとの対立(p163)
  1. アメリカ急進派が、イギリスの租税と通じての介入を自由の死と解釈する。
  2. 急進派は宣伝をするが、革命を起こすよりも、現行の秩序を維持する方が得と考えている(信念が変わらない)
  3. 1766年宿舎提供,1773年茶法,により、急進派の意見が正しいとされる(新しい信念へ移行)
▶︎革命の遂行
革命後の秩序の再興
植民地時代の遺産:政治的・経済的ゲームのルールの集合が、独立後へと引き継がれた。
▶︎合衆国憲法による中央政府の行為への制約と市民と州の重要性という共有された信念などが、分権的競争市場を生み出し、経済発展へ
適応効率的な政治構造(p166)
南北戦争後の回復に寄与した適応効率的な制度構造
  1. 経路依存性
  2. 要素賦存上の有利さ
  3. 信念体系の強化につながる出来事の発生
  4. 幸運
▶︎イギリスの遺産により匿名的交換を支える制度の発展に有利な環境が生まれた。
5、ラテン・アメリカのストーリー(p167)
スペイン統治後に独立した各地は米国式憲法を採用するが、イギリスの遺産がないので、それにより帰結は異なり、
独立国家は瓦解し、闘争が起きた。権威主義的レジームのもとでの非匿名的交換が成立。
匿名的交換に基づく共有された信念(p168)
新たな共和制の制度と古い秩序の政治基盤との対立により、政治的な根深い対立が生じた。自治というものが存在しないなかでは、共有された信念体系が何ひとつなく、非匿名的交換が存在した。この存在は匿名的交換を濁退化させる。また、共有された信念体系がないので、国家に制限を課すこともできなかった。これにより、新興国家の政治的不安定が生まれた。
メキシコ:政府–資産家の間に第3者が入り履行をコミットさせる。そして、財産は1部の資産家のみへの選択的保護であった
北米とラテン・アメリカの違い(p170)
アメリカとラテンアメリカの国々の成果の違いは基本的な信念体系の違いであった。アメリカには、イギリスの植民地時代から引き継いだ信念体系があったが、ラテンアメリカには、スペイン王国から引き継いだのは不安定性と混乱で、さらに奴隷制やエンコミンダ制なども継承された。その結果、対照的な制度発展となり、不断な社会変化に対しての適応効率性が異なるので、秩序の回復も異なる。
 
 
絶対所得仮説
Absolute Income Hypothesis
ケインズの消費関数に関する仮説で,所得の絶対水準が増加するにつれて所得に対する支出の割合が小さくなるというもの。つまり,所得に占める貯蓄の割合がふえることになる。たとえば,実質消費支出を C ,実質所得を Y とすると Y=aC+b ( a,b は正の係数) のような対応関係である。