ダグラス・C・ノース「制度原論」(2016,東洋経済)

第3章 信念体系、文化、認知科学

合理性の仮定には問題がある

合理性の仮定を置く完全競争<競争モデル>の下では、意思決定の問題は複雑ではない
→数量(生産量)を選択する(価格に影響はない)にあたってのフィードバックが素早く得られるから
But→数量が価格の関数であるとき、意思決定の複雑性は増大する→認知過程に入る必要が生じる
このとき、合理性の仮定をおくと、地形に対する理解の阻害となる。
→合理性の仮定で理解できることもあるが、不確実性が内包されている問題については、対応(心の関係に)できない。’

1、認知過程、信念形成と制度の相互作用(p37)

合理的選択の思考は個人の脳内のみでなされるのではなくて、その思考の過程においては、外部(つまり世界の社会的・制度的文脈)から影響を受けている。
→この合理的な選択は、限られた選択肢の中での、競争的選択であり、その結果、その選択は大きな機構の交換可能な歯車となる。(個々のメンバーの選択は大きな機構に影響しない?)
→この競争的選択と制度の相互作用を、我々は理解したい。

2、認知科学と人間学習(p39)

人間の学習過程:個人の学習の構造構築過程とは(1)初期の遺伝的構造→(2)個人の経験が影響→(3)これらはカテゴリ(人々の肉体的成長によって進化するところ)の上で、心的モデルを形成する。→その後のフィードバックが心的モデルに変化を加える(学習する=心的モデルの再定義)
「進化的環境における学習」:構成要素があるが、認知過程に関する争点は解決されていない→本書で争点を要点を簡単にまとめて書くために、コネクショニストのモデルを調べる

パターン・マッチング(p41)

後の議論:不確実性の世界では、思考は論理で発生するのではなく、パターンで発生する。もしも、生活にインパクトが与えられたならば、それを吸収し、わずかに対応するためにパターンを調整する。この経験を通じて得た(調整が幾度となく加えられた)パターンを我々が持ち、ある問題に遭遇した時、そのパターンに似ている限り、我々は理解や把握が上手である。(また、アイディアは我々の持つ規範の範囲内ならば、採用される)
→しかし、推論は下手である。
パターンマッチング:物事を一般化できる能力の過程
フェルドルマン:「0と1」の実験:人間はパターンがないところでも、世界を理解するために努力して、説明、理論、教義を持とうとする。
共通の文化的遺産:同じ制度と教育的構造を共有する社会において、心的モデルにより導かれた意思決定のぶつかりあいを削減する手段を提供し、また世代間をスムーズに移行させる役割を果たしている。
次の未解決な論争→心の遺伝的アーキテクチャは、認知の特別な特徴と認知過程の特徴の形成にどう関わってくるのか?

3、人間の心の適応可能性(p43)

<第1の論争>文化はどう形づくられる?
進化心理学的アプローチ:心→文化
伝統的なアプローチ:文化→心
我々の見解:進化した心理→文化を形づくる
グールド進化生物学者:環境の条件によって選択が作用されるのではなくて、そこにはルースが存在しており、偶然と養育能力が生存過程に大きく寄与する
実験経済学者(ホフマン):小規模集団においても、非協力的結果が望ましく、その際の余剰最大化を可能にするために報酬/罰則戦略が用いられる→心的進化と社会的適応の自然な産物
エピジェネシスの特徴は人間を取り巻く多様性の説明を試みてる社会学者にとっては、少しの進歩しかもたらさない
進化心理学者の貢献:心の根底にある推論構造を解明している→この推論構造による説明を理解することは、政治的経済的単位の時間を通じた成果特性の変化を理解する時に、重要である→しかし、遺伝的性向と文化的命令の関係はわからない。→研究のフロンティア

4、心の「作動メカニズム」と脳(p46)

コネクショニストのアプローチ
知識がどのように貯蔵され整理されるのか?
人工知能:知識がコンピュータの記憶装置のデータのように記憶に貯蔵され整理
コネクショニスト理論:脳の神経系の過程をシュミレートする→複雑なので、大規模なモデル→帰納的だ(経験してパターン化する)
→スモレンスキー:両立可能→心と知的システムが作用するメカニズムへと導く
認知過程:計算論的過程だから、知的システムの機能を説明するには計算論的枠組みが必要(計算主義と表象主義のリンクは直接的)
マリーン・ドナルド:シュミレートを通じて、脳と心を非記号的戦略でモデル化することは、知的な世界型を構築する上で、強力なものである

知識の一般可能性(p48)
コネクショニストモデル:一般化可能な知識を持つシステムとなることができる
問題:心的モデルの表象的再記述がどう作用するのか(個別なものを処理し、一般化し、アナロジーを使用する能力が修正される過程)
脳撮像の技術:謎が増えた

ハイエクの見解(p50)
信念:感覚によって解釈された、心の構造物
→理解できる範囲で、対象の性質が不正確であっても、われわれは分類する→新たな外部世界を学習するとき、蓄積された経験(統合システム?)の観点から解釈する→だから、異なる蓄積された経験を持つ個人が存在することは、解釈の違いをまねく。→こうして形成される物理的世界には、感覚による事象の分類が存在する(歪められた再生産が蔓延する世界)
→事象によっては裏付けられない期待を生じさせる(事象の認識が正しいかどうかはわからず、したがって、その事象に対して期待することもまた、裏付けのない期待である)
ハドウィン・ハッチンズ:文化、文脈、歴史→人間認知の根本的な側面→それらは個人の持つ認知の統合体であるが、うまく統合することができないという事実を説明することが必要で、
→課題は、「認知活動?のダイナミックな変化の過程において、個人の認知はそれの一部である」で、これを成し遂げると、文化や社会に人間認知が影響されるだけではなく、文化や社会は個人個人の認知が影響している過程であると示される。

マーリン・ドナルドの見解(p52)
文化の根本的な構成要素が言語から始まる。
主張:人間は他の生き物と違い、知識を蓄積できる
継起的諸段階:(1)感情の表出には限界があり→(1→2)身振り的段階で克服し→発話と口承を身につけ→神話的文化へ移行→読み書き:外的記号環境との共生が発展し、表象(直観的に心に思い浮かべられる外的対象像)的可能性が生じてきた(文化化の基礎)
理論的文化:記号システムを効果的に高度に使用し、また、蓄積されたそれらに組合せを行うことで、専門的な記号の集合が生成された結果、大多数の人々が使用する理論が発生する。すると、大多数の人々が使用しているために、理論が支配するという原則を共有することになる→理論的文化
科学的方法の発展:物理的環境と人為的環境に対する理解の転換→理論的文化:社会文化を、(心と外的構造の)計算論的システムを含むとみる??認知システムの過程において、外的構造の計算論的システムの影響を受けることは、認知システムの過程では内的な追加的過程とみなせる。そして、内的過程(計算論的システムを影響をうけた後の認知過程)と行為者たちのコミュニケーションは人間によって観察可能である。

人工物的構造の役割

(適応過程である)文化→社会制度の認識に対して有用
個人の信念が社会制度にどう相互に関係するのかがわかれば、社会制度と文化によって経済変化の説明がより上手になる
→本書第2部にて詳しく
文化的遺産→が人工物的構造(機械とか技術)→を提供し、それは選択をスキップすることができて、それが豊かであればあるほど、不確実性は大きく削減される。そして、その選択つまり認知活動において、その社会の文化(全体を考えた時)に対する人々の個人の認知(文化的文脈)が大きく寄与してればしてるほど(が豊かである=人工物的構造が認知システムによる選択に介在しているから不確実性が削減されると)、社会の存続が性向する可能性が高くなる。→すると、人工物的構造が豊かでない国と豊かな国では、そもそも選択に対して不確実性が伴うので、その両者の日常的な生活に潜む不確実性は異なってくる、人類はどう考えたって不確実性が大幅に削減された社会の方が良いので、豊かな人工物的構造を持つことは厳然として重要だよね
アントニオ・ダマシオ(認知の根底にある自己の神経生物学的基礎):意識が→人間の周りの条件を生み→色々と明らかになるので→良い→でも代償が高すぎる→これらが条件=ドラマである
→その後の文章の合意、、がわからなくて、今の生活環境が豊かすぎて、スーパー貧乏のときには感じることができる「生きれることのありがたさ(味噌汁のありがたさ)」を忘れてしまう。

第4章 意識と人間の志向性

ジョンサール:主観的状態がどうのように実現して、人生にどう機能するのか
→人生全体に影響するので、志向性を考える上で大事なことである
→発達は進化過程にによって説明できるが、模範を通じたアイディアの拡散には志向性が必要
人間行為の多様性:特定の特徴と信念をもった個人が、経済変化を引き起こす(社会的行動のパターンとなる=同じ信念をもつ人々が属する社会を作りあげるから、行動もパターン化する)

1、意識の拡張–文明の起源、対立の要因(p61)

一次意識と高次の意識
(心をもち物を精神的に気づける)と(自分が意識したり、つまらないとか美味しいとか、そいうことを自分が思っていると気づけること)
意識の理論:(1)物理的仮定(2)進化的仮定(3)クオリアの仮定
人間における高次の意識は行動の基礎であり、心の発達に結びついている→これが遺伝され→文化が継起していく(複雑だ)→歴史が生み出される→解釈できる→しかし、過去の出来事を解釈したことで、直接的に現実の成り行きに置換できない?
遺伝属性と文化属性を合わせて理解すると、そのときの人間を取り巻く条件を理解することが可能なのかもしれない

意識が延長していくストーリー

特徴
1、延長しすぎて、意識が具体化(迷信とか)してしまった(広い対象領域への延長)
2、延長すると、制度と人工物も発展する。これは意識がどの方向に向かっているのかを明白にして、その拡張を抑えることもある
高次の意識:現実にそれを具現化してしまう
パスカル:子供と大人の行為は道徳とは何なのかの表象で、見れば理解出来る。しかし、ある目的をもった超自然的主体の概念は道徳的推論を容易に取り込むことができるために、人々を虜にさせるような人々と関連性があるものにされる。→人々の知る道徳をうまく利用して生きながらえている。
→遺伝的起源が存在する
自己意識の高まりによって、人間は環境の構造を良くするために努力しなければ、という方向へ導かれる
エーデルマン:心的モデル(強調)の上で行われる「AはBだ」という文が思考に結びつけられると、今までのモデルαからモデルβへ移行するための能力が成長する。
遺伝的性向と多様に異なる経験との作用→社会変化の過程を理解するための出発点

意識の拡張がもたらすもの(p66)

文化(非公式な規範:思考的目的)的変異は遺伝子の属性じゃなくて、人間の志向性だ。
イデオロギー的同調:ときには良いが、時には悪い
制度や宗教は選択を一点範囲に限定させる形質もつ→p67まで10章の内容。

2、人為的環境の不確実性への対応

不確実性(定数)の変化:技術革新→それに対応する制度→それにより投資と拡張に誘因を与える→文化と合わさり多様な反応→フラストレーションを伴う制度→信念体系が人為的環境に対応するにつれて→それが経済発展の問題となった
経済的複利の格差拡大:知識と教義の対立、知識を応用するインセンティブの差→対立

信念と制度の複雑な混合
:知識の応用による達成は、神経系の直接的な帰結である。感覚とこの達成された状況と制度の結合が人間環境を取り巻く条件の源泉である。この源泉は、人為的環境への対処は心が反応するかである。
直面する新奇な問題は、経験的証拠を振り返ることでいくらか対処できる

3、異なる経験、異なる信念
生得的な協力行動は小規模集団を超えるのか?経済理論のモデルを変えるのか?→

経済学モデルに必要な2つの改訂(p72)
研究の要約:
1、モデルは支持されれない
2、集団間に大きな行動上の違いあり
3、市場統合の度合いと協力の利得の高低の集団レベルの違いが、社会間の行動の違いを説明できる
4、経済・人口の変数は説明しない
5、実験における行動と日常の経済パターンは整合的だ
結論
改訂:
1、経済人のモデルは実験結果と違う
2、経済的選択は、日常生活の経済的・社会的相互作用によって形作られる
→実験的行動と日常経済生活の構造の関連は標準的モデルの改訂に有用である

意識と志向性(p74)
格差を説明しようとするならば、信念体系の形成過程を探求すべし→信念体系の差異は、人為的環境の問題を扱う能力の差異を生み出す→その信念体系は複雑な文化(統合したい)へと進化するために多様な制度をつくる。その制度を観察すると、その社会の差異を説明出来る。この探求の過程では、先行研究で明らかになれた「人間行動」を、複雑な性質によってつくられた複雑な「信念体系」と統合しなければならない、